「覚えておきなさい。
 人に授けられた奇跡の条件……聞いたことがあるだろう?
 悪いことをせず、善良に生きる人間は……一生に一度だけ、『魔法』を使うことが出来るんだ。
 だから……良い子に育つんだぞ、二人とも」

 この世界に住むものならば誰もが知っている、御伽噺にして昔話。光を抱く信心深い人々に、神が授けた一度きりの奇跡。
 これは、そんな奇跡によって結ばれた少年と少女の物語。
 幼き日の誓いを胸に、光を抱き続けた騎士と姫君の物語。

   *

「……まっているわ、いつまでも。だから、どうかこれをあずかっていてほしいの。また会うその日まで」
「なっ……だめだよ姫様、これは王妃様の形見だろ!? また会えるかどうかも分からない俺に、こんな大切なものをわたすなんて」
「いいの。おねがい、そんなかなしいこといわないで。また会えるって、信じさせて」
「姫様。……そう、だね。やくそくする。ぜったいに、会いにくる。それまで、これはあずかってるよ――」

   *

 ……久しぶりに、昔の夢を見た。
「どうかなされましたか、姫様」
「貴女には関係無いわ」
 私の着替えを手伝いながら訊ねてくる侍女を冷たくあしらい、意識を過去へ飛ばす。
 十年近く前のことだ。当時私の護衛を努めていた一人の騎士が、重罪を犯した。故意ではないと皆が分かっていた。彼はその人柄ゆえ、誰からも好かれていた。彼を庇う声も多かった。それでもその罪はとても重く、彼は国外に追放された。
 そして彼には妻子がいた。彼に似て正義感の強い少年は、父親を介して私と知り合った。恋に落ちるまで時間はかからなかった。私にとっては、その少年こそが騎士だった。
 けれど彼が追放されたとき、その妻も息子も父についていくことを決意した。
 離れたくなかった。これで終わり、なんて嫌だった。
 だから約束した。亡き母の形見を預け、もう一度会いに来てと願った。少年は答えてくれた。滅多に嘘をつかない少年だから、絶対に会いに来てくれると、信じた。
 そして十年。私は今も、その少年を待ち続けている。
 もはや朧気な彼の面影を、必死に追い続けている。
「……姫様? また、例の悪夢でしょうか」
「そんなことどうでも良いでしょう!」
 躊躇いがちに訊ねてくる侍女を、睨んで黙らせる。
 怯える彼女は、けれどどこか納得したような表情を浮かべた。侍女たちの間で立っている噂は知っているから、私も深く追及はしない。すなわち、普段は王族の中でも一番穏やかで心優しい第二王女は、たまに悪夢を見て情緒不安定になるから気をつけろ、と。
 申し訳ない、とは思う。普段は優しくしているのにいきなり激昂する、そんな私の相手を侍女たちにさせてしまっていることは辛い。
けれど、どうしようもないのだ。夢に見るのは、幸せだった記憶ばかり。彼と笑い合って、彼を想って、彼に守られて……そうしていつも、あの誓いで現実に引き戻される。だから怖くなる。あの幸せだった日々は二度と戻ってこないんじゃないかと、物凄く怖くなる。遠ざかっていく幸せな記憶に。いつまでも変わらない記憶の中の私と彼と、成長していく私と薄れゆく彼に。彼を信じる心がひび割れていくような気がして、怖くなる。
 急に沈黙した私に、侍女はどこか労わるような表情で、再び口を開いた。
「姫様。本日は正午から礼拝がございます。悪夢を見ないように、と祈ってみてはいかがでしょうか」
「……そう、ね。ごめんなさい、ありがとう」
 答えながらも、心の中では真逆のことを考えた。
 神は奇跡など授けてくれない。
 神は願いなど聴いてくれない。
 魔法を使ってみようかと、『一生に一度』を今使ってでも彼に会いたいのだと願おうかと、そう考えたこともあった。
 けれどきっと私には、奇跡など与えられないのだ。
 光を忘れた私には、神は微笑んではくれないのだ。

   *

「……姫様?」
 ふと、顔を上げる。
 悲鳴と金属のぶつかる音に紛れて、懐かしい声が聴こえた気がした。遠い昔、誓いを交わした愛しい少女の声。
 胸元で鎖の音。彼女に預けられたものが、確かにそこにあることを確かめる。
 ……彼女は、まだ俺を待っているのだろうか。
 待っていてほしい。会いに行きたい。彼女との約束を、破りたくはない。けれど俺は、
「――っ!」
 振り下ろされた剣を避けるように体を捻り、その勢いで右手に握っていた剣を相手に叩き付ける。
 悲鳴。血しぶき。人の倒れる鈍い音。
 もう何度繰り返しただろう。この、国と国との境界で。俺の故郷、愛する彼女のいる平和な国からは程遠い、この場所で。
 ……決めた。どうにかしてここを切り抜けて、そうしたらこんな国には別れを告げて、彼女に会いに行こう。
 きっと今祖国に戻っても、ずっと彼女の隣にいることは出来ないだろう。たとえそう願っても、たくさんの人を傷つけた俺に、奇跡は起こらないだろう。
 けれど、神よ。俺の心からは、光は失われていない。彼女という、眩い光は。
 それを忘れないために、彼女の元へ行こう。
 約束を、果たそう。

   *

 ……と、思っていたのだが。
「……何で、こんなことになっているんだろうな。姫様」
 寝台に横たわる彼女の寝顔を見つめながら、俺はぽつりと呟いた。
「ようやく、会いに来られたのに」
 罪を犯し追放された父と共に辿り着いた国と、その隣国との間で始まった戦争。余所者だと信用されていなかった父は当然のように危険な最前線に駆り出され、その戦場で命を落とした。俺もまたそうなるだろうと、周りは予想していたのだろう。
 けれど俺は、死ぬわけにはいかなかった。ただ姫様との誓いだけを胸に、守れるわけのない約束を守るために、死ぬ気で生きた。気付いたら信用の無さなど覆して、周りにもてはやされるほどの強さを手に入れて、それでもなお血に塗れて。
 そして、今。叶うはずの無かった約束は、叶えられるはずだった。
 ……なのに。
 姫様の腕に巻かれた真っ白な包帯。俺の肩に巻かれた、血の滲む包帯。
 俺を見て姫様が驚きの声を上げようとした瞬間、横切った黒い影。何も考えずに剣を抜いて、その瞬間肩に走った痛みも何かが割れるような音も黒い影の動きも無視して、振り下ろした。
 姫様が見ていることなど、気にも止めなかった。
 だから姫様の怪我はかすり傷で済んだ。
 だから姫様は目の前で見てしまった。俺が傷つくところを、俺が人を傷つけるところを。
 そうして彼女は、気を失ったのだ。
 何が騎士だ、と心の中で自嘲する。大切な人すら守れず、ただ相手の命を奪うことだけを考える人間の、どこが。
 もちろん姫様だって仮にも王族の人間だ、人が傷つくところくらい見たことがあるだろう。だけど問題はそんなことではないのだ。
 俺が人を傷つけた、という事実。姫様の目の前で、俺が人を斬ったという事実。それこそが――
「……ぅ」
 僅かに聞こえた呻き声に、顔を上げる。
「姫様!」
「え……?」
「良かった、目が覚めたんだな……大丈夫か? 傷は手当てしてあるけど、しばらく痛むかもしれない。ごめん、俺、守りきれなくて」
 ぼんやりとした目で俺を眺める姫様。俺の言葉を聞いて首を傾げ……しばらくして、彼女は訝しげに呟いた。

「……貴方、誰だったかしら」

 目の前が暗くなったような、そんな錯覚。
 ――ああ。だけど俺は、十年前に言っていたんだっけか。
 例えどんな性格だろうと、君を愛そうと。君を愛すると。

   *

「……それでは、彼に関すること以外は全て覚えていらっしゃるのですね。姫様」
「ええ。だから教えてくれないかしら、彼がいったい誰なのか。皆、彼に対して好意的なようだけど」
「そうですね、あの一家は誰からも好かれていましたから。もっとも、それも十年近く前の話ですが……詳しいことは彼に聞いた方がよろしいでしょう。欠けた記憶を取り戻すためにも」
「そう。分かったわ、ありがとう」
 部屋を出ていく医師を見送る。ついでに視線だけをくるりと一回転。視界に入るのは見慣れた自分の部屋。
 その入り口から、見慣れぬ少年が顔を見せた。
「姫様。えっと……どうだった?」
「思い出せなかったわ。貴方のことは、何も」
「……そっか」
 寂しそうに、彼は微笑む。けれど部屋から去ろうとはせずに、彼は笑顔で訊ねてきた。
「じゃあせめて、ここにいてもいいかな。傍で守りたいんだ、姫様のこと」
「それは構わないけれど……だったら何か話しましょう。聞きたいわ、貴方のこと」
「俺のこと?」
 心底不思議そうな顔で首を傾げる彼に、私は首肯。
「ええ。どうして貴方は私のこと、そんなに想ってくれるの? 私は貴方のこと、何一つ覚えていないのに」
「誓ったから」
 即答だった。思わず聞き返す。
「誓った?」
「ああ。どんな性格であろうとどんな姿であろうと、俺は姫様のことを愛しているって。十年くらい前に」
「十年も前の誓いを、守り続けているの?」
「守れなかったから、守りたいんだよ。十年も姫様を一人にした。また会おうって約束を、守ることが出来なかった。だから、取り戻したいんだ」
「……分からないわ。貴方にとって、私は何なの? 私にとって、貴方は一体何だったの?」
 そんな私の呟きに、彼はただ微笑む。
「後者は分からないけど、俺は常に君にとっての騎士になりたいと思っているよ。愛しい姫様の、騎士に」
 ……ああ、この人は本当に、私を想ってくれているんだ。
 けれど、それは彼にとって幸せではないだろう。だって、私は彼のことを、忘れてしまっている。
 そこまで私を愛してくれる少年のことを、私は何も覚えていないというのに。
「……決めたわ」
「え?」
 唐突な私の呟きに首を傾げる彼に、告げる。
「私、記憶を取り戻すわ。貴方のこと、思い出したいの。どんなことをしてでも」
「何で?」
 真顔でそう返されても困るのだけど。
「……嬉しくないの?」
「いや、嬉しいけど……城の人たちに聞いたんだ。姫様がたまに悪夢にうなされて情緒不安定になっていた、って。悪夢の原因は多分俺だ、みたいなことも言ってた」
「そう、なの?」
「ああ。だから……良いんだ、姫様はそのままで。俺のことも約束のことも忘れていた方が、幸せだと思う」
「貴方は? それじゃあ、貴方の幸せはどうなの? 皆言っていたわ、私に会うためにわざわざ苦労して、とても遠くから帰ってきたんだって。それなのに……その私が、貴方のことを忘れているのよ? 貴方と過ごした日々も、貴方との約束も、全部! 貴方は……それで、良いの?」
 私の問いに、彼は困ったように笑った。
「俺は――姫様が幸せなら、それでいい」

   *

 不意に。ちくり、と胸に痛みが走った。
 服の上から触れると、硬い金属の感触。取り出してみると、そこには割れた鏡があった。
「……嘘、だろ」
 どこか呆然と呟くと同時、しかし納得する。姫様を襲った暗殺者を切る直前、耳に届いた何かが割れた音の正体。
 ……だけど。
 これは、十年前に姫様から預けられたものなのに。
 これは、十年前に姫様と交わした約束の証なのに。
 これは、これだけが、姫様と俺を繋いでいたのに。
「壊れたからって無くなる程度の想いでもないけど……これじゃもう約束は果たせない、のか」
 また会ったときに返す、という約束。
 壊れたものは、返せない。割れた鏡を修復するのは、どんなに腕の良い職人でも難しいだろう。
 だから約束は、果たせない。
 一瞬、目の前が真っ暗になる――直前、ノックの音が響く。
「あ、あの。私です。……入って良い、かしら」
「……姫様?」
 扉を開けると、さっき別れたばかりの少女が立っていた。
「どうしたんだ?」
「ごめんなさい、こんな夜遅くに。あの……十年前、私は貴方と何か約束をしたのよね。その場所に連れて行ってほしいの。そうすれば何か、思い出すかもしれないでしょう」
「だから、思い出す必要は――」
「嫌よ」
 その答えが返ってくるのは早かった。驚いて姫様を見ると、彼女は何とも言えない表情で俺を見ていた。
 痛みをこらえるような、何かを覚悟したような、泣きそうな表情で。
「……姫様?」
「嫌よ、絶対に嫌。貴方は私が幸せならそれで良いって言ったわよね、だったら連れて行って。だって凄く辛いの。貴方が私のことを想ってくれているのに、私は何も返せない。貴方のこと、何も知らないから。だから何も、言ってあげられない……っ!」
「……そ、っか。そうだよな」
 今の姫様にとって、俺は知り合ったばかりなのに守ると言い張ってくる人間で、昔そういう約束をしたんだと言い張る見知らぬ男で。それでも姫様は優しいから、それを拒絶することも出来なくて、だったら思い出すより他に道はないと――俺は、知っていたはずなのに。
「それでも俺は、思い出せとは言えないけど……それ聴いちゃ、止めることも出来ないよな」
「じゃあ、連れて行ってくれるのね?」
 姫様が嬉しそうに微笑む。……ああ、この笑顔には勝てないよな。


「ここは……神殿?」
「正解。十年前、ここで俺たちは約束したんだ。また会おう、って」
 今はもう、果たせない約束。失われてしまった、誓いの証。
 その事実を思い出して軽く目を閉じると、すぐ傍で人の移動する気配がした。
 目を開くと、隣にいたはずの姫様が部屋の中央で跪いていた。
「……姫様?」
「好都合だわ。『魔法』を使うのに場所は関係ないけれど、こういう場所が望ましいと習ったから」
 そう言って、彼女は目を閉じる。
「魔法の祖、奇跡の女神クローディアよ私はかつて、光を見失ったことがありました。けれど今、私の願いを叶えてくださるなら。この命が尽きるその瞬間まで、光を抱き続けられることでしょう……ですから、どうか叶えてください。

 私のことを誰よりも愛してくれるこの少年と、永遠に一緒にいること。それが、私の『魔法』です」

 ……それは、誰もが知っている呪文。
 一生に一度の奇跡を起こす、文字通り魔法の言葉だった。

   *

 その言葉を発した瞬間、頭の中で声が聴こえた。言葉無き声。言うなれば神の意志。
 ――貴女の願いを聞き入れた、とその意志は告げる。
 ああ、そうなのだろう。だって心の奥底、何かが抜け落ちたような感覚がある。きっとそれは私の魔法。一度きりの奇跡が、使われてしまった証。
 だけどそれを埋める温もりがある。きっとそれもまた私の魔法。私の願いが、聞き入れられた証。
 ――何故、と意志が訊ねた。
 何のことかと訝しむと、女神は意志ではなく言葉で、はっきり訊ねてきた。
『何故、記憶を取り戻したいと願わなかったのです? この先記憶を取り戻せる保証も、例え思い出せたとしても一生彼のことを好きでいられる保証もないのに、何故?』
 まるで小さな子供のように、心底不思議だという口調で訊ねる女神に、私は微笑みを返した。
 ……何だ、そんな簡単なこと。
 だって私は彼を信じている。無に近いほどに薄れた彼との記憶だけれど、心の奥底に残っている。彼を想う心、彼を信じる心。後は彼がそれを浮かび上がらせてくれると、そう信じていいと、私は知っているから。
 そう答えると女神は納得したように微笑み、そうしてその意志は現れたときと同じように静かに消えゆく。……見えないはずの彼女の微笑みが、何故かはっきりと見えた気がした。
 目を開くと、前には物凄く怒った顔をした彼の姿があった。
 私は彼を見上げ、にっこりと微笑む。
「良かった、成功したみたい」
「姫様……馬鹿だろ。一生に一度の『奇跡』を、俺なんかのために使うなんて……!」
「良いのよ。私が、そうしたいって決めたの」
「……変わらないな、姫様は。昔から、本当に頑固だ」
「え?」
 聞き返す私の声には答えず、彼は懐から上等な布に包まれた何かを取り出し、中身を手に乗せた。大小様々な硝子の欠片。いえ、あれは……鏡?
「姫様がそこまで覚悟していたのなら、俺は協力するしかなくなるからな。僅かな可能性に縋ってでも」
 彼は苦笑し、目を閉じる。その口が紡ぐのは、さっき私自身が口にしたばかりの呪文。
「魔法の祖、奇跡の女神クローディアよ。俺は、たくさんの人を傷つけました。そんな俺が奇跡を請うても叶うわけが無いと、そう思い込んできました」
 奇跡を起こす呪文は、それこそ人の数ほどあると言われている。本来必要なのは二つ。最初の語りかけと最後の願いさえ言えば良い。けれど私たちのように、懺悔交じりの呪文を選ぶ者は多いと聞く。
「けれど、俺はずっと、光を抱き続けてきました。姫様との約束という光だけは、必死に守ってきました。その姫様が、俺と共にいることを選んでくれた。だから俺は、姫様を守りたい。姫様の苦しむところは、見たくないから――」
 彼は手の上の硝子片を、私の目の前に差し出す。
 驚いて見上げると、彼は笑った。大丈夫、と。
「俺のしたことが許されるなら、どうか叶えてください。

 姫様と……リーゼロッテとかつて交わした約束の証を、取り戻したい。それが、俺の魔法だ」

 この少年と出会って初めて名前を呼ばれたことに驚くより先、眩い光に視界を奪われる。強く、けれど不快ではない……今まで見たことの無いような、透き通った光。
 それを放つのは少年の手の上、きらきらと輝く欠片。光が治まると、そこには小さな鏡があった。
「ようやく約束を守れる……返すよ、これ」
「それは……お母様の」
 呟くと同時、溢れてくる記憶。光に釣られたかのように、浮かび上がってくる日々。
 幼い頃に恋をした、たった一人の私だけの騎士。大好きで大好きで、だから決して離れたくなんてなかった。
 けれど彼の邪魔をするのも嫌だった。彼が決めたことを、私のわがままで変えてはいけないと分かっていた。私が頼めば彼はきっと聞いてしまう、そう知っていたから。
 せめてもう一度会いたくて、これを預けた。いつまでも待っていると、そう誓った。
 待っていた。十年、待ち続けた。悪夢を見ても、光を失っても、彼のことだけは忘れなかった。……再会した瞬間にそれを忘れてしまったのは、皮肉なこと。
 ああ……再会してから一度も、彼は名乗らなかったけれど。
 私はずっとずっと昔から、その名前を知っている。
「……ライン」
 呟くと、騎士は微笑む。その答えを予想していたとでも言うかのように、けれどその割に嬉しそうに、昔と変わらない笑顔を浮かべた。

「ただいま、リーゼロッテ」

   ***


 騎士の奇跡、それは姫君との約束を守ること。
 抱き続けた光は、起こりえなかった奇跡をも起こし。

 姫君の奇跡、それは想い人と共にいる未来。
 彼の記憶を失っても、その想いだけは変わらずに。

 騎士と姫君の奇跡は終わろうとしている。
 騎士と姫君は自ら歩み始めようとしている。
 けれど奇跡を願う人々は尽きず、ゆえに女神は奇跡を起こす。
 人を変え場所を変え、奇跡の物語はいずれまた幕を開ける。

 そのときまで――しばしの休息を、女神に。

2011/06/06
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