05.冷たい心
その日、あかねちゃんは、泣いていました。
理由なんかありません。ただ、目から涙を流していました。
次の日、あかねちゃんは、学校を休みました。風邪をひいてしまったのです。
「もう、39.7℃も熱があるじゃないの。今日は大人しく寝てなさいよ、赤音」
「うん…」
「じゃ、お母さん今日仕事あるから。ごめんね、一緒にいてあげられなくて」
「大丈夫だよ〜。わたしだって、もう3年生だもん」
「そうね。ちゃんと寝てなさいよー」
「行ってらっしゃーい!」
「行ってきます」
そう言って、お母さんは、お仕事に行きました。
「ふぅ…」
あかねちゃんが、布団に入って眠ろうとしていると、
“あの子、昨日泣いたよね”
“うん。僕、それ見たよ”
“じゃあ、持ってるのね「アレ」を”
“たぶんね。フフッ”
という、不思議な会話が聞こえてきました。あかねちゃんは、怖くなりました。風邪を引いていることと、前にもこんな話し声が聞こえて、その後、恐ろしいことが起きたような…。
確かめたいと思ったけれど、声の主を見つけるのも怖いので、あかねちゃんは、布団にもぐりました。
(やだ、やだ。何も見たくない!何も聞きたくない!怖いよ!)
そんなことを考えていると…
“僕らの話聞こえてるのかな?”
“まさか。でも、聞こえてたとしたら、私たちのモノにはできないわね…”
“そうだね。ちぇー。残念ー”
それを聞いてあかねちゃんは、つい大声で言ってしまいました。
「聞こえてるよ!!最初から、全部!!だから、早くどこかへ行って!!」
“それ、ホント?”
「本当だよ!!だから早くいなくなって!!」
“フフッ。何でー?僕らがなんでここにいるか、君、分かってるー?”
“出てきてみなさいよ”
「嫌!!出て行ったら、わたしに変なことするんでしょ!?」
“変なこと?例えば、どんなことだい?”
「……っ」
“どーしたの?黙っちゃって”
あかねちゃんは、突然、動かなくなりました。不思議に思った声の主の1人が、あかねちゃんに近づき、あかねちゃんのおでこに触りました。
“うっわ!熱い!!ユイリ!!ちょっと来て!!”
“熱い?どういうこと?泣いた人間は冷たいはずだよ”
“でも、かなり熱いんだよ。何で?”
“本当だね。ウィルスにやられたのか?”
ユイリと呼ばれた声の主も、あかねちゃんの枕元に来ました。
“ウィルス…。面倒ものが来ちゃったね…”
“やっぱり泣いてすぐに来た方が良かったんだけどねぇ”
“しかたないよ。先に泣いた人間がなかなか泣き止まなかったんだから”
“とにかく何とかするよ、ニコロ”
“オッケー”
そして、夕方になりました。
「うぅ〜ん…」
あかねちゃんが、目を覚ますと、お母さんが帰ってきていました。
「赤音!!良かった、熱下がったわよ!」
「お母さん…」
「この様子なら、明日から学校へ行けるわね」
「うん…」
次の日から、あかねちゃんは、また元気に学校に行きました。あの声が聞こえたことは、あまり覚えていません。
けれど、その日から、悲しいことがあってあかねちゃんが泣いていると、またあの声が聞こえてきます。
“君の『冷たい心』をもらいに来たよ…”