03.骨鳴りの吊り橋

あれは・・・あかねちゃんが小学校3年生の時のお話です・・・
その日、あかねちゃんは自転車に乗っていました。

・・・学校のスグ裏に・・・黒森山という山があります。
街の中央に位置していたその山は私にとってはとっても・・・煩わしい山です。

なぜなら、あかねちゃんの仲の良かった親友の家がその山のすぐ向こう側にあったからです。
つまり・・・あかねちゃんは・・・そう・・・その日も・・・自転車で・・・友達の家に行って・・・
アレが起きたのは、その帰り道でのことでした。

「キラッ☆流星にまった〜がぁって・・・♪」

明るい陽気な歌を歌いながら、私は友達の家からの家路を急いでいました。
もう日はドップリと暮れ、太陽は既に山際へと沈んでいました。
黒森山の周りには外周する舗装された綺麗な道路があるんですが・・・
それを通ってたら間違いなく門限には間に合いませんでした。

だから・・・私はその日・・・
黒森山の中をまっすぐに抜ける道を選んだんです・・・
それが・・・まさか・・・あんなことになるなんて・・・

山の中の道は・・・外灯なんて当然無くって・・・道も処々舗装されているだけでした。
いつもは通らない道なので・・・後どれぐらいで山を抜けられるのかはわからなかったです。だから、私は一生懸命自転車を漕いで・・・

そして・・・山の中腹に差し掛かった頃でしょうか・・・そこには・・・

谷があって、一本の吊り橋がかかってたんです。
それはとっても小さな橋で・・・ふと・・・あかねちゃんは昔大人の人から聞いたお話を思い出しました。

『骨鳴りの吊り橋・・・』

この橋は確かそう呼ばれていている橋でした。
そして・・・同時にあかねちゃんは・・・なぜこの橋がそう呼ばれているのかも思い出しました。

その昔・・・この前授業で習った戦国時代という時代に・・・
この谷を超えてきた武士が待ち伏せを受けて・・・この場所で全員が討死したからです。
そして・・・その討死した全員の死体が・・・見せしめとしてこの橋にぶら下げられ・・・やがて死体の肉はカラスに啄まれ・・・腐敗し・・・やがて服と骨だけになって・・・そして・・・谷を吹き抜ける風によって揺らされた骨だけの死体の骨がぶつかって・・・

カタカタと音を鳴らしたからなんだそうです。

もちろん、その言い伝えを嫌がって、街の人達はここには近づこうとはしませんでした。
しかもそれだけじゃなくって・・・
戦争中・・・ここには陸軍の弾薬庫があり・・・事故で大爆発を起こして・・・
何十人もの人が無くなったという事実もあるんです。

だから・・・街の人達は絶対にココには近づこうとしませんでした・・・

ですが・・・

今から戻っていた迂回する道を行ったのではものすごく時間がかかり、家に帰る頃には門限をオーバーしてお母さんに怒られる・・・
あかねちゃんはそれが嫌で・・・その吊り橋の道へと進んでいったんです。


鬱蒼とした木々の中で・・・明かりになっているのは自転車のヘッドライトだけでした。
しかも道は舗装されていないので・・・ガタガタと揺れて・・・おまけに風で木々がザワザワと揺れるので・・・ものすごく気持ちが悪かったそうです。

それにあかねちゃんが乗っているのは小学生用の自転車で・・・
しかも女の子ではそんなにスピードも出ません。
おまけに、自転車の荷台に備え付けた籠には・・・友達と遊ぶときに使ったバレーボールも入っています。
あまり速度を出すと、ボールが落ちて・・・自転車を止めなければなりません。

それでもあかねちゃんは必死に漕ぎ続けました。

やがて・・・風の音が人間の悲鳴のように聞こえてきて・・・
自転車の後ろ側は完全な闇で・・・
あかねちゃんは怖いので・・・必死に漕ぎ続けました。
木々の梢の音が鳴り響き・・・まるでカタカタと骨が鳴っているような気がします。

そして・・・

トットットットットットットットットットット・・・

その足音にあかねちゃんは震えました。
そう・・・間違いなく・・・

誰かが追いかけてきているのです。

必死に急ごうとするあかねちゃんですが、スピードは出ません・・・
そして真っ暗な闇の中から近づいてくる足音はどんどん大きくなっていきます・・・

「うぐっ・・・うぇ・・・」
嗚咽混じりになりながら、あかねちゃんは必死に自転車をこぎます・・・

ドンドン足音は近づいてきます。

トットットットットットットットットットット・・・
「うぐっ・・・えぇ・・・ふぇ・・・」

トットットットットットットットットットット・・・
「ぇ・・・うぇ・・ぇぇぇん・・・」

やがて目の前に・・・骨なりの吊り橋が見えてきました。

そして、吊り橋に足を踏み入れた途端に・・・

がくっ!!!?

ペダルがいきなり重くなりました・・・
そう・・・バレーボールしか無いはずの荷台に・・・
何かが載っているのです・・・
犬や猫などではない・・・明らかに人間と同じ重さのある・・・何かが・・・

振り返ったら死んじゃう!!

あかねちゃんはそう言い聞かせ、重いペダルを必死に漕ぎました。
そして・・・。

吊り橋の中腹に差し掛かった時です・・・

風邪がヒューヒューと鳴る音に混じって・・・

「・・・・・・・・このあたりでいいだろう・・・・・」


低い男の声がして・・・

自転車のペダルが固定され、吊り橋の中腹であかねちゃんは動けなくなってしまい、自転車ごと倒れてしまいました。

そしてそれと同時に・・・
荷台のバレーボールが飛び出したのを見たんです。

「ダメ!!」
あかねちゃんは大声でそう叫んで、必死になってそのボールをキャッチしました。

その時・・・
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

あかねちゃんは大きな悲鳴を上げました。
なぜなら・・・
見えなかったけど・・・そのときあかねちゃんの掴んだものは・・・
ゴワゴワとしていて・・・重くて・・・
そう・・・つまり・・・髪の毛と・・・皮膚・・・・
つまり・・・

人間の生首だったのです。

「きゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
叫びながらあかねちゃんはそれを谷底に投げ落としました。

そして再び自転車にまたがり、必死に吊り橋を抜けました。

「あと・・・すこしだったのにな・・・」
谷底から聞こえる・・・そんな声を背に・・・


家に帰ってみると、なんとか門限には間に合っていて、お母さんが玄関で出迎えてくれました。
「おかえりあかね・・・」
「お母さん!!お母さん!!!」
あかねちゃんは必死にお母さんに事情を説明しました。

「これって夢だよね!!夢だよね!!!」
大声で言うあかねちゃんに、お母さんは静かに・・・諭すように言いました・・・
「よく聞きなさい・・・あかね・・・それは・・・夢じゃないわ。」
「え・・・」
「だって・・・ほら・・・」
そう言ってお母さんが指さしたのは自転車の荷台でした。
そして・・・それを見て、あかねちゃんは絶句しました。
なぜなら・・・
そこにあるバレーボールには・・・

顔面を押し当てたような後と・・・無数の髪の毛が絡み付いていたのですから・・・・



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